免疫力と多幸感と快感を、太極拳と頭推按で。

50メートルプールに一滴垂らすほどの量で、完全な作用をもたらすと言われているホルモンのように、人間の体内や脳内には人間の生命や精神に多大な影響をもたらす物質があります。
そのひとつは、脳の中で作られる麻薬に似たエンドルフィンという物質で、とくに作用の強いベータエンドルフィンはモルヒネの6倍の強さを持ち、脳内麻薬(脳内モルヒネ)と呼ばれています。脳内で麻薬と同じような効果をもたらしますが、もちろん生体内に自然に生成されるものなので中毒になるということもありません。
いい音楽を聞いたり親しい人と会話を楽しんでいるときなどに分泌されるため、快楽物質とか幸せホルモンとも呼ばれ、性行為をすると、β-エンドルフィンが多く分泌されます。
このような快感を覚える脳内ホルモンには、エンドルフィンのほかにも、セロトニン、エンケファリンなどが20種類も見つかっています。
特に、精神性の高い欲求を実現している際には、エンドルフィンは抑制されずに放出されつづけるらしいのです。
このようなホルモンが分泌されると、気分が高揚しストレスを解消するため、免疫力が高まって病気にかかりにくくなります。
とくにベータエンドルフィンは、免疫機能をつかさどるT細胞やB細胞、さらにガン細胞を殺すNK細胞などの免疫細胞を増殖したり活性化する働きがあり、老化を防ぐことになります。
逆にイライラや怒りなど精神的にストレスが加わると、エンドルフィンの分泌は抑えられ、かわりに脳からノルアドレナリンという物質が分泌されます。
さらに恐怖を感じる時にはアドレナリンが分泌されます。このような緊急時には、快楽物質とか幸せホルモンと呼ばれるエンドルフィン系では、危険を回避するには役に立たないからです。しかし、これらは毒性のきつい物質で、これが出やすい人は、老化しやすく、免疫力が低下して病気にかかりやすくなってしまいます。
経穴などを点穴や鍼灸などの技術で的確に刺激すると、エンドルフィンが分泌されることが明らかになっています。
頭部にある経穴を経絡に沿って気功を行う、頭推按(とうすいあん)という太極拳の外気功術などもエンドルフィンを分泌させて様々な効果をもたらすもののようです。
頭推按では頭部の経絡と経穴に、武当派の太極拳で修行される点穴術(急所を突く術)を、活法(活力を与える法)として気功を行うものです。
ベータエンドルフィンなどは、脳の神経細胞などの間で情報を伝達したり作用する重要な脳内物質です。
このような物質が正常に保たれていると、脳内で報酬系(満足したときに活性化する系統)といわれる部位が活性化し快の感覚を感じるのです。
頭推按で、脳内の気と血の流れを、経絡と経穴の緊張緩和と緩慢緊縮により改善することで、脳内の様々な生理作用のホメオスタシス(恒常性維持、つまり最も正常な状態に戻ろうとする機能)が正常化すると考えられています。正常化すると、脳内には様々な物質が正常に放出されるのは当然のことです。
脳内には、マリファナなどとよく似た内因性カンナビノイドなども見つかっており、トラウマの記憶を消去する効果も持っているそうです。このような物質も正常であれば、十分に放出されます。
また、太極拳で放出されることで有名なセロトニンは、不安や興奮、不快感を鎮める「リラックス」のホルモンですが、現代人においては不足しているらしいです。セロトニンは、喜びや快楽で興奮すると出るドーパミン(快)や、恐れたり驚いたりすると出るノルアドレナリン(不快)の情報をコントロールして鎮める精神安定の効果があるといわれています。また、人間の精神に多幸感、他者との共有感などをもたらします。
ドーパミンが適当に放出されながら気が充満した感覚と、その解毒を上回るエンドルフィンが放出されている快感と、セロトニンというリラックスホルモンによる多幸感と共有感という愛に包まれているような感覚が、確かに太極拳や頭推按にはあります。

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