寒い冬の間はどうしても外に出るのがおっくうになったり、体が縮こまって知らず知らずのうちに肩や腰が凝ることがあります。
手先足先の末端冷え性がなかなか改善しないまま春を迎える人も多いようです。
寒くて朝の早起きがつらく、毎朝の食事前の軽い運動(太極拳や畑仕事や家事)が不足して、運動不足で血流が滞っていることが一番の原因なのではないかと思います。
そこで運動不足に陥った心身を自力で整体して改善するということを考えてみます。もちろん太極拳にも自力整体の術があります。太極拳で自力整体といったらちょっと難しそうですが、太極拳などで新しく何かを行う事が重要なのではなく、普段の生活習慣をいかに脱力して自力で整体して、自然治癒力を維持していくかということにも焦点を当ててみます。
そんな自力整体の3つの脱力(筋肉・内臓・心)をふまえて、自分の心と体を見つめ直すヒントを載せてみたいと思います。
◎筋肉の脱力◎
本来人間は、健康な体を維持できる恒常性を持って生きています。そのバランスが崩れたときに、病気にかかってしまうわけです。例えば、体の中では常にガン細胞が作られていますが、発生する場合としない場合があります。発症する原因は、心的ストレスや暴飲暴食、肉体疲労など何らかの原因からくる自然治癒力の低下にあります。この自然治癒力の維持こそ、最近話題となっている予防医学と繋がってくるところでしょう。この自然治癒力とは、東洋医学で言う『気』(生命が活動するためのエネルギー)が全身を流れてクリーニング&メンテナンスをしてくれる活動のことです。『気』は、緊張している部分は避けて通る習性があります。つまり、筋肉・内臓・脳の全てが脱力していることが自然治癒力を高める最大のポイントになるということです。ところで、『気』には二通り有ります。病を作るような悪い気と、自然界や宇宙と繋がっている良い気です。脱力により全身のツボが開かれていると、そこから自分の中の不要な気『邪気』を排泄し、自然治癒力を助ける宇宙自然からの気『生気』が入ってくるのです。太極拳でも、『用意不要力』という言葉があります。『意を用いて、力は要らず』という意味です。早起きして公園に行った日は、その言い伝え通り体の力を抜き、ゆっくりした動きの中でエネルギーを全身にめぐらせ宇宙の気と繋がることをイメージして太極拳を行うと、体があったかくなり、自然と一体になった感覚が体感でき、ます。これこそ、本来の人間の姿なのでしょう。しかし、普段の生活では、いかに無意識で慌ただしく動いていることが多いことか。知らぬ間に心や体を緊張させてしまっているのですね。そこで、縮んでいる筋肉に体重をかけ、指圧したりねじったり伸ばしたりして筋肉や関節を元の脱力した状態に戻すことが自力整体なのです。つまり、体が脱力して初めて整体がつくられ、ゆがみやこり、痛みを無くせるということです。
自然な脱力状態をつくる
体のゆがみは人それぞれで、そのゆがみによって全体のバランスがとれている場合もあります。しかし、単なる生活習慣による癖で起きたゆがみは、体に不調をもたらします。その一番の原因は、急いだり、頑張って力んでしまったりすることです。急ぐと、上半身に力が入って緊張し逆に下半身の力が抜けてしまいます。この様な無意識の習慣が、ゆがみになってしまうのです。背骨を中心とした体の中心軸を保ち、しなやかでありながらどっしり地に足のついた下半身に重心がある脱力状態を作り出すには、先のことをあれこれ気にもまず、今この瞬間に焦点を当てて楽しむこころ構えが一番大切です。そして普段の行動においても、次のように少し意識することで脱力状態を増やすことができます。
<歩き方>
代表的な歩き方としては、二通りあります。一つは、腕を前後に振りながら腕と足を逆方向にして歩く『行動型股関節歩行』で、西洋型とも言われています。
もう一つは、腕を振らずに同じ側の腕と足を同時に出して歩く『ナンバ歩き型骨盤歩行』で、日本型と言われるものです。この歩き方の違いは、西洋人と日本人の体型の違いからきたものなので、日本人にとって一番緊張のない歩き方としては『ナンバ歩き』なのでしょうが、結果的にその人にあった長く歩いても疲れない歩き方が理想です。
そう言われてみると、日本の時代劇では、みんな上半身が板のようにまっすぐな状態で歩いていました。初めは着物が着崩れないための楽な歩き方でそうなったのかと思いましたが、体型的な理由があったのですね。また数年前、陸上競技の短距離走オリンピック選手が、今まで腕を前後に振っていた走り方のフォームをナンバ走りに変えたところ、タイムがグッと縮まったといったドキュメント番組を見たことを思い出しました。
<荷物の持ち方>
疲れない荷物の持ち方は、できるだけ体に近いところでものを持つことです。特に、ウエストポーチやリュックサックのように体の中心部に密着させている荷物ほど、軽く感じられます。確かに、山歩き用の大きなリュックを背負うときは、重量30㎏くらいあるものなのに、ウエストベルトを締めて荷物と体を密着させると、ほとんど重みが感じられなくなります。重いものを持ち上げる場合も、荷物を体に引き寄せて体の中心と荷物の中心を合わせると持ち上げやすいです。
逆に、体の末端つまり手先に持っている荷物ほど、重く感じられます。買い物袋をぶら下げて持つときは、小指と薬指で袋を引っかけるようにして持つと、肘がしまって肩に力が入らないので脱力して持つことができます。私も実験してみましたが、肩と肘は張らないので楽な感じです。しかし、普段あまり使わない指に力が入るので、そこが少しつらいところでした。
◎内臓の脱力◎
体の筋肉の脱力は分かりやすいですが、自然治癒力を高めて健康を維持するには、内臓の脱力も欠かせません。それには、空腹状態で脱力した睡眠時間が重要になってきます。快眠・快便によって内臓を脱力させ、食事に関しては、栄養のとりすぎは体調不良の元であると言う考え方です。実際、人間の体は空腹には強いけれど、過食や満腹には弱くできています。長い歴史をさかのぼって、狩猟生活の時代を想像すればわかることです。人間の内臓は、一日のうち2時間くらいが腹八分目で、あとは空腹であることが当たり前として作られているのです。現代人は、昔の人と比べて約3倍の内臓エネルギーを浪費しているそうです。私たちの老化や死は、老廃物の蓄積によるものです。体内で発生する老廃物の処理が出来ずに溜まると毒素に変化し、その毒素が体内組織の細胞分裂を阻害していくと死に至ります。多く食べるから内臓が疲れて老廃物や毒素が溜まり、少なく食べることで老廃物や毒素が排出されやすくなるのです。
◎こころの脱力◎
普段の生活で感じる様々な不安、恐怖などは、素直に受け入れ、それにとらわれない生き方が重要です。先のことを不安がって妄想したときには、何かしら心の動きが生じているはずです。それをしっかり自覚して受け入れることによって、新たな選択が生まれてきます。そしてやると選択したものは覚悟して楽しんでやることが、脱力したこころの生き方です。
体にしても心にしても、まずはどんな自分でも受け入れていく事からすべては始まります。いろんな自分を自覚してさえいれば、どんな行動でも自分の中の最善を選択して起こすことが出来るからです。自力整体では、いかに普段の自分を感じていくことが大切かを教えてくれているような気がします。特に、体は生きていく上でかけがえのないパートナー。だからこそ、いつも体と相談しながら過ごすことは大事なことですよね。この記事を読みながら、少しでもみなさんが今の自分を振り返れるようなゆったりした時間をとれたならうれしく思います。